なかとそと

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川上未映子『夏物語』傑作すぎたので感想

『夏物語』は、結婚や出産、セックス、そして生死まで…。
なぜするのか?多くの女性が、考える暇もなく通り過ぎる人生の出来事を取り扱っている。

登場するのは、みな違う考えをもち、悩みながらも自分の頭と体で生きている女性ばかり。
毎日に向き合い、進んでいく彼女たちを追ううちに、当たり前に溶け込んでいた感情が急激に輪郭をもちはじめる。

驚くのは、女に生まれた人間として、私自身が確実に知っている感情を引きずり出されることだ。

父や母、家族に対して、恋人に対して、男性全般に対して、社会に対して。
自分以外の存在を前にしたとき、ふと目をそらしたりあきらめたりしてしまう違和感や嫌悪感。

自分では見逃してしまっていた暗く深い意識に沈んだ感情を、夏物語はやさしく掬い取ってくれる。
そして、その感情がいかに自分にとって大切なものだったかを思い出させてくれるのだ。

この作品と出会わなければ、もしかして気づかなかったかもしれない、小さな小さな感情。
読む人によって、希望だったり勇気だったり癒しだったりするそれらは、確実に私たちの背中を押してくれる。

性や人間、生死など、文学が目をそらしてはいけないテーマに、真摯に誠実に、丁寧に向き合ってきた著者だからこそ生まれた傑作だ。

 

もともと川上未映子氏は大好きなのだが、改めて私ゃアンタについていくよ!という気分になった。

次回作も非常に楽しみ。