なかとそと

本と酒と人がすきです≫≫書店 図書館 版元営業 ライター

ストーナーを読んで

細かいディテールの話が好きだ。

ディテールにこそ、その人をその人たらしめる要素や人生のドラマが詰め込まれていて、世界に唯一しかない生を生きているという事実が身に迫って、そんな話を共有してくれる相手に慈しみと敬意を深く、深く感じる。

当たり障りのない、感情の起伏や議論の巻き起こらない会話、趣味や仕事に関するラベルをつけるような会話からは、相手のことがたいして伝わってこない。あなたにしかない言葉で、あなたにしかない体験を話してくれたら、と常々願っている。

私が人と話すのも本を読むのも、飲み屋で酒を飲みすぎるのも、そういうミクロな世界に触れるためかもしれないと思う。ただ、ディテールはごく個人的な内容になることがあるので、滅多に周囲へ話すものではない、と考える人もいる。少なくとも、私のような相手に話しても得がないとする人もいる。ある意味で、私の願いは非常にわがままで独りよがりで、共感する人の方が多くないかもしれない。それを、そりゃそうだよな、と冷静に見る自分ももちろん存在する。

でも、この世界で、たった一度の人生で、あなたと出会ったのだから、あなただけの物語を知りたいと思うのはわがままなんだろうか。独りよがりなんだろうか。

私はあなたを知りたいし、あなたに知って欲しいと、どうしても焦がれてしまう瞬間が時折やってくる。

ストーナーは、そんな矛盾と葛藤するこころにすんなりフィットして、慰められるような癒されるような作品だった。年月を超えて何度でも読み返すうちに、未熟で揺れ動くこころがどこかに着地する日が来るのかもしれないと思う。